【UO小説】ヒナの旅行記No2 抜け殻の姫と死のアーティファクト
こんばんは
ヒビキです('ω')ノ
今日はUO小説の日です。
前回書いた、ヒナの旅行記の続編ですよー。
前作はこちら
【UO小説】ヒナの旅行記No1 ヒナ失せ物探しに会う
それでは、新作
【UO小説】ヒナの旅行記No2 抜け殻の姫と死のアーティファクト
をお楽しみください。
以下本編!
=============================
ヒナの旅行記No2
抜け殻の姫と死のアーティファクト
その時、私は絶体絶命だった。
「アイアイサー、高波でさー」
「そうね、最ッ高にイカした嵐じゃない」
一人ではしゃいでいるのはクレア船長。迫りくる高波と暴風雨にさらされて船はぎしぎしと悲鳴を上げながら、海にもてあそばれるように揺れ狂っている。
船があっちへぐらり、こっちへぐらりと揺れるたびに、乗客である私たちはあっちへゴロゴロ、こっちへゴロゴロと、もみくちゃにされてる。
「船酔い、ってレベルじゃないよ、これはー」
これは私の絶叫。
その時、クレア船長が客室に飛び込んできた。
「総員退避! 板切れを抱いて海に飛び込んで!!!」
「え、ええええええ」
「もうこの船、沈ッむわよー」
「う、嘘ーーーーー」
それからほどなく、私たちは板切れにしがみついて海に飛び込んだんだ。そこから先の記憶がない。気づいたら、穏やかな海の大きな船の、静かな船室にいた。
「ここは?」
「おや、気づいたようね」
堂々たる風貌の女性が、私をのぞき込んできた。
「あなた、名前は?」
私の名前は、
「ヒナ……、ヒナです」
「そう、ヒナ。無事だったみたいでよかったわ。嵐が過ぎたと思ったら漂流物と一緒にあなたが浮いていてね、思わず助けに飛び込んだってわけ。ま、嵐の後にはよくある話よ。とりあえず無事でよかったわ」
「ありがとうございます。……あなたは?」
「私はキャプテン・カタリーナ。ブリタニア王立艦隊の船長の一人よ。ま、いまは艦隊から外れて単独行動中なんだけどね」
「そ、そういえば。他のみんなは? クレア船長たちを見ませんでしたか?」
「いいえ。残念だけど、残骸と一緒に見つかったのはあなただけよ」
「そ、そうかぁ」
単純に、海を渡るためだけに乗り込んだ船の船長だったけど、そうなってみるとそうなってみたで、なんだか不思議な感情に襲われたんだ。さっきまであんな元気にはしゃいでた人が、急にいなくなるなんてなぁ。
キャプテン・カタリーナは優しく微笑むと、
「時期にシーマーケットに着くわ。そこで、大陸への船を探してもいいし、もしもあなたにできるなら、私に協力してくれてもいい。無理強いはしないわ」
「協力?」
「そう、あなたは私の協力者に適任なの。でも、あなた一人じゃ無理ね。シーマーケットに顔の知られていない協力者が欲しい。そんな協力者を、あと何人か見つけられないかしら? 例えば、あなたと同じような漂流者や、もぐりの船長。そんな人物が適任ね」
ちょっと考えた。カタリーナ船長は私の命の恩人。なら、恩返しをしたい。
「喜んで」
私は、カタリーナ船長と熱い握手を交わしたんだ。
シーマーケットに降りると、そこはものすごい場所だった。もう、海の上の一大基地とでもいえばいいかな。とにかくスケールも人も、船も、魚も、怪しい人たちも、とにかく何もかもがブリタニア本土とは違ったんだ。
とりあえず漂流者を探そう。私みたいな漂流者が行くとしたら、本土へ帰る船を探すか、酒場で食事でもとったりする。実際おなかがすいた。私は酒場へ行ってみたんだ。
「う、うう、ううう。うううううう」
わかりやすくすすり泣いてる人がいた。肌は真っ白で、死人のよう。表情は見えないけど、間違いなく海の人じゃない。いきなり漂流者に当たったかな?
「こんにちは、お嬢さん。隣いいかしら?」
「誰、あなたは」
「私はヒナ。旅行者で旅人、今は、漂流者よ」
「そう、あなたも漂流者なの。私は、私は、私の名前もわからないの。何も思い出せないの」
ビンゴ。この人は漂流者だ。それも、記憶喪失のとびっきりの漂流者だ。って、カタリーナ船長の企ての協力者になれるのかな? むしろ心配になってきた。まあでも、乗り掛かった船だ。いえ、乗せかかった船、って言った方がいいかも。
「実は、船乗りと知り合ってね。頼めば船に乗せてくれるかもしれない。よかったらあなたもどう?」
「いいの? どの船も、高い船代を請求してきてとても乗れないの。もしもその船に乗せてくれるなら、協力するわ。……仮に、あなたとあなたの船長が、何かを企んでるのだとしてもね」
話が早い。
「いいわ、悪いようにしないからね」
協力者、一人目。記憶喪失の抜け殻の姫。仮名はファサード(上っ面の意味)にした。
次の協力者は、向こうからやってきた。
「あッらぁー。あんた、ヒナじゃない。生きてたのねー。だから海に飛び込めばいいッて言ッたのよ、あたしは」
「クレア船長!」
このクレイジーな船長は、船が沈んだことを微塵も感じさせないでゲラゲラ笑ってた。そういえば、カタリーナ船長はもぐりの船長でもいいって言ってたよね?
「シーマーケット? いや、あたしは来たことがないねぇッ。ははーん、そういうこと? ヒナ、あんたに協力すれば、船が手に入りそうな予感がする。いいわ、取引しましょう」
なんで、みんな、そろいもそろって察しがいいのだろう。
協力者、二人目。クレイジー・キャプテン・クレア。
それじゃ、カタリーナ船長のところへ戻ろうかな。なんて思ってたら、
「あー、いたいた。君がヒナ? もー、探したんだから。協力者は見つかった? あ、私はあなたの仲間よ。カタリーナ船長の華麗なる助手、モルグとは私のことよ。まー、かたっ苦しい挨拶は、あとあと。船長からの指令を伝えるわ。ターゲットは私掠艦マイアーヒ号。協力者たちと潜入して、航海日誌を奪ってきて。これは極秘よ。それじゃ、あとはがんばってねー。まったねー、ヒナ」
りょーかい。
それから、私たちは作戦を練った。クレア船長がめずらしくまじめにしゃべった。
「ま、キャプテン・カタリーナッて人も無茶苦茶いうねー。航海日誌の強奪ですッて? 見つかッたら極刑は免れないわねー。何より相手は私掠艦……ブリタニア王立艦隊公認の海賊船よ。もー、おッもしろいじゃないの」
海賊、かぁ。以前、海賊につかまったことがあるけど、あれとは違うのかな。
「まったく質が違うわね」
ファサードが語った。って、記憶喪失治ったのかしら?
「ただの海賊はそこらの盗賊や強盗と何ら変わらない。でも私掠海賊となると、海軍の雇われ海賊。軍人よ。訓練された海の殺戮集団なの」
それは厄介な相手ね。ところで、マイアーヒ号の船長ってどんな人なんだろ?
ファサードが答えた。
「酒場で見たことがある。ちょび髭の、いやらしい顔をした甲高い声の小男ね。サイアム船長って男。常に女を侍らせてるような女好きだったわ。私たちには好都合ね。ヒナと私は、年頃の女だし」
「はッはーん」
クレア船長はにやりとすると、作戦を語った。
「似合ッてるわよー、ヒナ。見事な召使ねー」
「本当にこんな格好で行くの?」
「レッツゴーよー」
私は大量のジャガイモを抱えると、船に堂々と乗り込んだ。この制服は、マイアーヒ号の召使が来てる服らしくて誰も怪しまなかった。てかさ、私掠艦なのに召使って変じゃない? イメージと会わないなぁ。
なーんて思ってたら、あっさりと船長室にたどり着いた。入って驚いた。
「え」
サイアム船長らしき男ががばたりと倒れていた。目は見開いていて、口はぽかっと開いている。ファサードが絡みつくように抱き着いていて首筋に、牙を立てていた。あれは、血を吸ってるのか。ファサードが気付いた。
「あら、ヒナ遅いじゃない。おなかすいたから食事。航海日誌ならこれよ。おなか一杯になったら帰るから、先に戻ってて」
「え、ええ」
としか言いようがない。
船長室から出ると、見覚えのある男が格好をつけて立ちふさがっていた。この胡散臭い冒険者は……
「おおっと、待ってもらおうか。お嬢ちゃん」
「失せ物探し、なんであんたがここに」
「サイアム船長は俺のクライアントでねぇ。ヒナみたいなコソ泥に、航海日誌を渡すわけには……ぶげぇっ!?」
油断してる失せ物探しに私の前蹴りが決まった。金的、そこからの回し蹴り。
「ま、まて」
「待たない」
こないだとはわけが違う。私のかかと落としが失せ物探しの脳天をぶち抜いた。
やっぱりこいつ、弱い。
失せ物探しをぼっこぼこに片付けると、私はしずしず立ち去った。
私たち3人はさっそうとカタリーナ船長の元へ戻った。キャプテン・カタリーナは航海日誌をパラパラとめくると、
「なるほどねぇ、やっぱり――サイアム船長はワルね。血、おいしかった?」
「まずかったわ」
「でしょうねぇ。さあ、錨を上げて、帆を張って。目的地が判明したわ」
私たちは風に吹かれるままに、その島へたどり着いた。
「航海日誌によれば、ここにそのアーティファクトがあるっていうけど……あれね」
島の中央には、おぞましいマナの気配と、プカプカと浮いている石があった。あれは、
「マナの結晶石」
「あら、ヒナ知ってるのかしら」
前に、失せ物探しにそそのかされて、水の結晶石を見つけた。あれと似てる。
「待ちなっ。お嬢ちゃん、そこまでだ」
「まあ、そういうことだ」
振り返ると、失せ物探しと酒呑、そして、
「カタリーナ大尉ィっ!!」
サイアム船長の甲高い声が響いた。海賊、いえ、海兵隊と思わしき面々を連れている。
「貴官が、わたくしの航海日誌に興味があるとは存じなかったですぞ。これは重大な違法行為だ。小官はァ、貴官を軍法会議にかけることォ提案いたしますぞォっ!」
「あらあら、サイアム大尉ではありませんか。少女にかじられた首筋がいたそうで何より。あなたこそ、少しはたしなみを身に着けるべきじゃないのかしら? それとも、この、死の結晶石に目がくらんだのかしら」
「それはこの冒険者が見つけたもの。小官はそれを買い取ったまで。これは、国の宝ですぞ」
「とんでもないこと。これは国を破滅させる恐ろしい兵器。私たちは、この死の結晶石を破壊しに来ました」
「そのようなことはさせない、死の力はわたくしのものですぞォっ」
サイアム船長は死の結晶石に駆け寄って、吹き飛ばされた。ぞくりとした。ものすごいマナの爆発が起こり、私たちは全員、ごみくずのように吹き飛ばされた。
……な、なんだろう。なんだか……苦しい。
「……やっべえ、な。酒呑、……こいつが死の結晶石の力か。こればかりは俺も、年貢の納め時かもしれねえ……」
「……まずいな、失せ物。売る相手を……間違えたな」
海兵隊たちがバタバタともがき苦しみ、動かなくなっていく。
私はあたりを見渡す。
「……ファサード?」
吸血鬼の少女は、ただひとり何事もなく平然と立っていた。
「そうだヒナ、私ひとつ思い出した。私、魂がないんだ」
「え?」
「魂がないから、生きてるけど生きてないから、死の力なんか及ばないんだ」
抜け殻の姫は平然と死のアーティファクトに触れると、いともたやすく握りつぶした。
大爆発が起きた。そして、私たちは救われた――
「カタリーナ大尉、ご苦労だった」
「ごきげんよう、キッド大佐」
「くっ、うぅぅ……」
サイアム船長は捕らえられた。罪状は国家反逆罪。なんでも、オークの海賊と違法な取引を何度も繰り返し行っていたらしい。ついでに言うと、マナの結晶石を私物化しようとしたのも、何かしらの罪状に問われるかもしれないとのことだった。
「世の中、悪ぃ奴ははばからねえってことだな、酒呑」
「まあ、そういうことだ」
「よく言うわね、失せ物探し」
「ん? 俺は世紀の大発見をしただけだぜ。そして調査中に死にかけただけだ。断じて悪いことは一切しちゃいない」
「違いねえ」
「「がっはっはっ」」
「あっはっはっ」
失せ物探しと酒呑の野太い笑い声。そして、細くて乾いた私の笑い声。
「あたしの船は戻ッてこないけどさー、キッド大佐ッて人からそれなりの手当てもらッたから、小船でも買ッてやり直すさー」
とはクレア船長。ファサードは、
「結局、私の記憶は戻ってこない、魂もね」
この真っ白な少女はどこか遠くを眺めてた。
私たちは、カタリーナ船長とキッド大佐からお褒めの言葉と金一封を受け、堂々とブリタニア本土へ戻っていった。
「そういえば失せ物探し、あんたの名前なんていうの?」
「あ? 前にも名乗ったろ。忘れたか」
失せ物探しは粛々と名乗った。
「失せ物探しのジョン・ドゥ。あなたの失くし物、探します」
「私の記憶と、魂は探せる?」
「ああ、どんなもんでも探してやるよ。金さえ出せばね」
「違いねえ」
「あー、波が高いぜー」
私たちはこうして、元の道へ戻っていった。
今度はどこへ、行こうかな?
旅人のヒナ――
ヒビキです('ω')ノ
今日はUO小説の日です。
前回書いた、ヒナの旅行記の続編ですよー。
前作はこちら
【UO小説】ヒナの旅行記No1 ヒナ失せ物探しに会う
それでは、新作
【UO小説】ヒナの旅行記No2 抜け殻の姫と死のアーティファクト
をお楽しみください。
以下本編!
=============================
ヒナの旅行記No2
抜け殻の姫と死のアーティファクト
その時、私は絶体絶命だった。
「アイアイサー、高波でさー」
「そうね、最ッ高にイカした嵐じゃない」
一人ではしゃいでいるのはクレア船長。迫りくる高波と暴風雨にさらされて船はぎしぎしと悲鳴を上げながら、海にもてあそばれるように揺れ狂っている。
船があっちへぐらり、こっちへぐらりと揺れるたびに、乗客である私たちはあっちへゴロゴロ、こっちへゴロゴロと、もみくちゃにされてる。
「船酔い、ってレベルじゃないよ、これはー」
これは私の絶叫。
その時、クレア船長が客室に飛び込んできた。
「総員退避! 板切れを抱いて海に飛び込んで!!!」
「え、ええええええ」
「もうこの船、沈ッむわよー」
「う、嘘ーーーーー」
それからほどなく、私たちは板切れにしがみついて海に飛び込んだんだ。そこから先の記憶がない。気づいたら、穏やかな海の大きな船の、静かな船室にいた。
「ここは?」
「おや、気づいたようね」
堂々たる風貌の女性が、私をのぞき込んできた。
「あなた、名前は?」
私の名前は、
「ヒナ……、ヒナです」
「そう、ヒナ。無事だったみたいでよかったわ。嵐が過ぎたと思ったら漂流物と一緒にあなたが浮いていてね、思わず助けに飛び込んだってわけ。ま、嵐の後にはよくある話よ。とりあえず無事でよかったわ」
「ありがとうございます。……あなたは?」
「私はキャプテン・カタリーナ。ブリタニア王立艦隊の船長の一人よ。ま、いまは艦隊から外れて単独行動中なんだけどね」
「そ、そういえば。他のみんなは? クレア船長たちを見ませんでしたか?」
「いいえ。残念だけど、残骸と一緒に見つかったのはあなただけよ」
「そ、そうかぁ」
単純に、海を渡るためだけに乗り込んだ船の船長だったけど、そうなってみるとそうなってみたで、なんだか不思議な感情に襲われたんだ。さっきまであんな元気にはしゃいでた人が、急にいなくなるなんてなぁ。
キャプテン・カタリーナは優しく微笑むと、
「時期にシーマーケットに着くわ。そこで、大陸への船を探してもいいし、もしもあなたにできるなら、私に協力してくれてもいい。無理強いはしないわ」
「協力?」
「そう、あなたは私の協力者に適任なの。でも、あなた一人じゃ無理ね。シーマーケットに顔の知られていない協力者が欲しい。そんな協力者を、あと何人か見つけられないかしら? 例えば、あなたと同じような漂流者や、もぐりの船長。そんな人物が適任ね」
ちょっと考えた。カタリーナ船長は私の命の恩人。なら、恩返しをしたい。
「喜んで」
私は、カタリーナ船長と熱い握手を交わしたんだ。
シーマーケットに降りると、そこはものすごい場所だった。もう、海の上の一大基地とでもいえばいいかな。とにかくスケールも人も、船も、魚も、怪しい人たちも、とにかく何もかもがブリタニア本土とは違ったんだ。
とりあえず漂流者を探そう。私みたいな漂流者が行くとしたら、本土へ帰る船を探すか、酒場で食事でもとったりする。実際おなかがすいた。私は酒場へ行ってみたんだ。
「う、うう、ううう。うううううう」
わかりやすくすすり泣いてる人がいた。肌は真っ白で、死人のよう。表情は見えないけど、間違いなく海の人じゃない。いきなり漂流者に当たったかな?
「こんにちは、お嬢さん。隣いいかしら?」
「誰、あなたは」
「私はヒナ。旅行者で旅人、今は、漂流者よ」
「そう、あなたも漂流者なの。私は、私は、私の名前もわからないの。何も思い出せないの」
ビンゴ。この人は漂流者だ。それも、記憶喪失のとびっきりの漂流者だ。って、カタリーナ船長の企ての協力者になれるのかな? むしろ心配になってきた。まあでも、乗り掛かった船だ。いえ、乗せかかった船、って言った方がいいかも。
「実は、船乗りと知り合ってね。頼めば船に乗せてくれるかもしれない。よかったらあなたもどう?」
「いいの? どの船も、高い船代を請求してきてとても乗れないの。もしもその船に乗せてくれるなら、協力するわ。……仮に、あなたとあなたの船長が、何かを企んでるのだとしてもね」
話が早い。
「いいわ、悪いようにしないからね」
協力者、一人目。記憶喪失の抜け殻の姫。仮名はファサード(上っ面の意味)にした。
次の協力者は、向こうからやってきた。
「あッらぁー。あんた、ヒナじゃない。生きてたのねー。だから海に飛び込めばいいッて言ッたのよ、あたしは」
「クレア船長!」
このクレイジーな船長は、船が沈んだことを微塵も感じさせないでゲラゲラ笑ってた。そういえば、カタリーナ船長はもぐりの船長でもいいって言ってたよね?
「シーマーケット? いや、あたしは来たことがないねぇッ。ははーん、そういうこと? ヒナ、あんたに協力すれば、船が手に入りそうな予感がする。いいわ、取引しましょう」
なんで、みんな、そろいもそろって察しがいいのだろう。
協力者、二人目。クレイジー・キャプテン・クレア。
それじゃ、カタリーナ船長のところへ戻ろうかな。なんて思ってたら、
「あー、いたいた。君がヒナ? もー、探したんだから。協力者は見つかった? あ、私はあなたの仲間よ。カタリーナ船長の華麗なる助手、モルグとは私のことよ。まー、かたっ苦しい挨拶は、あとあと。船長からの指令を伝えるわ。ターゲットは私掠艦マイアーヒ号。協力者たちと潜入して、航海日誌を奪ってきて。これは極秘よ。それじゃ、あとはがんばってねー。まったねー、ヒナ」
りょーかい。
それから、私たちは作戦を練った。クレア船長がめずらしくまじめにしゃべった。
「ま、キャプテン・カタリーナッて人も無茶苦茶いうねー。航海日誌の強奪ですッて? 見つかッたら極刑は免れないわねー。何より相手は私掠艦……ブリタニア王立艦隊公認の海賊船よ。もー、おッもしろいじゃないの」
海賊、かぁ。以前、海賊につかまったことがあるけど、あれとは違うのかな。
「まったく質が違うわね」
ファサードが語った。って、記憶喪失治ったのかしら?
「ただの海賊はそこらの盗賊や強盗と何ら変わらない。でも私掠海賊となると、海軍の雇われ海賊。軍人よ。訓練された海の殺戮集団なの」
それは厄介な相手ね。ところで、マイアーヒ号の船長ってどんな人なんだろ?
ファサードが答えた。
「酒場で見たことがある。ちょび髭の、いやらしい顔をした甲高い声の小男ね。サイアム船長って男。常に女を侍らせてるような女好きだったわ。私たちには好都合ね。ヒナと私は、年頃の女だし」
「はッはーん」
クレア船長はにやりとすると、作戦を語った。
「似合ッてるわよー、ヒナ。見事な召使ねー」
「本当にこんな格好で行くの?」
「レッツゴーよー」
私は大量のジャガイモを抱えると、船に堂々と乗り込んだ。この制服は、マイアーヒ号の召使が来てる服らしくて誰も怪しまなかった。てかさ、私掠艦なのに召使って変じゃない? イメージと会わないなぁ。
なーんて思ってたら、あっさりと船長室にたどり着いた。入って驚いた。
「え」
サイアム船長らしき男ががばたりと倒れていた。目は見開いていて、口はぽかっと開いている。ファサードが絡みつくように抱き着いていて首筋に、牙を立てていた。あれは、血を吸ってるのか。ファサードが気付いた。
「あら、ヒナ遅いじゃない。おなかすいたから食事。航海日誌ならこれよ。おなか一杯になったら帰るから、先に戻ってて」
「え、ええ」
としか言いようがない。
船長室から出ると、見覚えのある男が格好をつけて立ちふさがっていた。この胡散臭い冒険者は……
「おおっと、待ってもらおうか。お嬢ちゃん」
「失せ物探し、なんであんたがここに」
「サイアム船長は俺のクライアントでねぇ。ヒナみたいなコソ泥に、航海日誌を渡すわけには……ぶげぇっ!?」
油断してる失せ物探しに私の前蹴りが決まった。金的、そこからの回し蹴り。
「ま、まて」
「待たない」
こないだとはわけが違う。私のかかと落としが失せ物探しの脳天をぶち抜いた。
やっぱりこいつ、弱い。
失せ物探しをぼっこぼこに片付けると、私はしずしず立ち去った。
私たち3人はさっそうとカタリーナ船長の元へ戻った。キャプテン・カタリーナは航海日誌をパラパラとめくると、
「なるほどねぇ、やっぱり――サイアム船長はワルね。血、おいしかった?」
「まずかったわ」
「でしょうねぇ。さあ、錨を上げて、帆を張って。目的地が判明したわ」
私たちは風に吹かれるままに、その島へたどり着いた。
「航海日誌によれば、ここにそのアーティファクトがあるっていうけど……あれね」
島の中央には、おぞましいマナの気配と、プカプカと浮いている石があった。あれは、
「マナの結晶石」
「あら、ヒナ知ってるのかしら」
前に、失せ物探しにそそのかされて、水の結晶石を見つけた。あれと似てる。
「待ちなっ。お嬢ちゃん、そこまでだ」
「まあ、そういうことだ」
振り返ると、失せ物探しと酒呑、そして、
「カタリーナ大尉ィっ!!」
サイアム船長の甲高い声が響いた。海賊、いえ、海兵隊と思わしき面々を連れている。
「貴官が、わたくしの航海日誌に興味があるとは存じなかったですぞ。これは重大な違法行為だ。小官はァ、貴官を軍法会議にかけることォ提案いたしますぞォっ!」
「あらあら、サイアム大尉ではありませんか。少女にかじられた首筋がいたそうで何より。あなたこそ、少しはたしなみを身に着けるべきじゃないのかしら? それとも、この、死の結晶石に目がくらんだのかしら」
「それはこの冒険者が見つけたもの。小官はそれを買い取ったまで。これは、国の宝ですぞ」
「とんでもないこと。これは国を破滅させる恐ろしい兵器。私たちは、この死の結晶石を破壊しに来ました」
「そのようなことはさせない、死の力はわたくしのものですぞォっ」
サイアム船長は死の結晶石に駆け寄って、吹き飛ばされた。ぞくりとした。ものすごいマナの爆発が起こり、私たちは全員、ごみくずのように吹き飛ばされた。
……な、なんだろう。なんだか……苦しい。
「……やっべえ、な。酒呑、……こいつが死の結晶石の力か。こればかりは俺も、年貢の納め時かもしれねえ……」
「……まずいな、失せ物。売る相手を……間違えたな」
海兵隊たちがバタバタともがき苦しみ、動かなくなっていく。
私はあたりを見渡す。
「……ファサード?」
吸血鬼の少女は、ただひとり何事もなく平然と立っていた。
「そうだヒナ、私ひとつ思い出した。私、魂がないんだ」
「え?」
「魂がないから、生きてるけど生きてないから、死の力なんか及ばないんだ」
抜け殻の姫は平然と死のアーティファクトに触れると、いともたやすく握りつぶした。
大爆発が起きた。そして、私たちは救われた――
「カタリーナ大尉、ご苦労だった」
「ごきげんよう、キッド大佐」
「くっ、うぅぅ……」
サイアム船長は捕らえられた。罪状は国家反逆罪。なんでも、オークの海賊と違法な取引を何度も繰り返し行っていたらしい。ついでに言うと、マナの結晶石を私物化しようとしたのも、何かしらの罪状に問われるかもしれないとのことだった。
「世の中、悪ぃ奴ははばからねえってことだな、酒呑」
「まあ、そういうことだ」
「よく言うわね、失せ物探し」
「ん? 俺は世紀の大発見をしただけだぜ。そして調査中に死にかけただけだ。断じて悪いことは一切しちゃいない」
「違いねえ」
「「がっはっはっ」」
「あっはっはっ」
失せ物探しと酒呑の野太い笑い声。そして、細くて乾いた私の笑い声。
「あたしの船は戻ッてこないけどさー、キッド大佐ッて人からそれなりの手当てもらッたから、小船でも買ッてやり直すさー」
とはクレア船長。ファサードは、
「結局、私の記憶は戻ってこない、魂もね」
この真っ白な少女はどこか遠くを眺めてた。
私たちは、カタリーナ船長とキッド大佐からお褒めの言葉と金一封を受け、堂々とブリタニア本土へ戻っていった。
「そういえば失せ物探し、あんたの名前なんていうの?」
「あ? 前にも名乗ったろ。忘れたか」
失せ物探しは粛々と名乗った。
「失せ物探しのジョン・ドゥ。あなたの失くし物、探します」
「私の記憶と、魂は探せる?」
「ああ、どんなもんでも探してやるよ。金さえ出せばね」
「違いねえ」
「あー、波が高いぜー」
私たちはこうして、元の道へ戻っていった。
今度はどこへ、行こうかな?
旅人のヒナ――
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